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稲取銀水荘は伊豆稲取温泉にある温泉宿。創業時から続くおもてなし、新鮮な魚介類を中心とした料理の質は高く、その風格ある桃山風建築の佇まいと相まって、「銀水荘なら間違いない」という安心感を抱かせる。「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」で高い評価を受け続ける日本を代表する温泉宿である。
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稲取銀水荘…仕事の関係で何度か訪れたことのある宿だが、実際に宿泊するのは今回が初めて。話に聞く「おもてなし」とはどんなものだろうか。伊豆急行の伊豆稲取駅に着く前から期待が膨らむ。
駅から送迎バスもあるが、今回は散策がてら宿まで歩く。人の動き、風の流れ、どれも緩やかに見える。こころなしか時間の流れまでもスローモーションな感じがする。
駅前は閑散としていたが、温泉街というか、漁港周辺まで来ると商店も増え、温泉宿も散見されるようになる。目指す銀水荘は漁港の反対側。キラキラと銀色に輝く海(これが銀水荘の由来だったりする)が見えたら右に曲がればいい。ほどなく前方に大きな建物が見えてきた。
まず外観の立派さというか大きさに目を見張る。さすが「銀水荘」といったところ。現代調の桃山風建築の建物は、各階が雛段式に積み上げられ、まるで楼閣ような雰囲気である。
エントランスからロビー入った最初の印象は、天井がとても高く奥行きがあること。さすがバブル前の建物だけあって空間をとても贅沢に使っている印象。景気の良い時代だからできた贅沢さではあるが、今ではなかなか真似ができそうにない。
さらに見渡すと、鯉の泳ぐ池や、ラウンジやお土産を販売する売店、季節を飾り付ける浮き舞台がある。ちなみにロビーでは毎朝、干物や海産物などを販売する朝市が開かれる。
施設の規模はとても大きい。良く言えば豪華、悪く言えば空間が広すぎるように感じる。今風の宿というよりも、少し前、いわばバブル期の「華やかな香り」を残しているのという表現が適切だろう。
だからこそ、記念日に利用する中高年やお年寄りを始め、家族3世代での利用者が多い。今でも銀水荘を利用することが、ひとつの「ステータス」であることに疑いの余地はない。
建物ばかりではなく、ズラッと並ぶ仲居さんも驚きで、笑顔を浮かべながら一斉に「いらっしゃいませ」と頭を下げる。その光景に逆にこちらが少々照れるほどだ。チェックインをすると、お部屋係の仲居さんが部屋まで案内をしてくれる。
世間話や非常口の場所などの説明を聞きつつ部屋に入る。部屋では抹茶のサービスがあり、お茶菓子と一緒に楽しむことができる。抹茶というとハーゲンダッツのアイスばかりで、本家とはとんと無縁だが、ほろ苦い味もなかなか乙なもの。
抹茶を飲みながら話を聞くと、以前は宿のエントランスで抹茶サービスをしていたのだが、早く部屋で休みたいというお客様が多くなったこともあり、今は部屋で抹茶サービスを行っているそうだ。
ちなみに最上階には茶室があるが、この茶室は特別室と貴賓室に泊まる人のみ利用できるとのこと。ただ見学はできるそうなので、見学したい場合はフロントで申し込ばいいそうだ。他にもカラオケやショークラブに夜食用の食事処もあり、施設設備は充実している。
館内施設や夕食の時間などの説明が終わると、仲居さんが「靴下を貸してください」と言ってきた。何故かと尋ねると、なんと靴下の洗濯サービスがあるとのことだ。「臭いけどゴメンナサイ」と心でつぶやき仲居さんに靴下を渡した。
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仲居さんが退出し、抹茶も飲み終わったので、風呂に入る準備にとりかかる。早速浴衣に着替え、2階の大浴場に行くと、さすが大浴場というだけあって脱衣所も広い。
温泉分析書があったので、早速チェック。自家源泉で源泉かけ流しではあるが、異物除去のために循環濾過装置を併用。また衛生管理のために塩素を投入しているようだ。塩素の使用は少々残念だが、きちんと情報公開している姿勢には好感が持てる。
これだけ大きな浴場になると衛生管理は最も気を使うところ。「何かあってはいけない」「何かあっては遅い」という気持ちも分からない訳でもない。妙に納得しつつ「えいや!」と裸になり、いざ浴場へ突入。
浴場に入ると…これまた広い。ちょっとした体育館といってもオーバーではない。さらに浴槽も大きく、湯量も豊富。縁を見ると温泉水がオーバーフローしている。これぞ「源泉かけ流しの証明だ!」とひとり喜びつつ、まずは体を洗って風呂に入る。
湯の温度は熱くなくぬるくもない適温。温泉の臭いはどうかと鼻を近づけてみたら、弱い塩味臭がする。塩素の臭いを感じないところからみても、使用量は必要最小限に抑えているようだ。このことは温泉好きにとっては素直に嬉しい。
さらに露天風呂に移動すると、鼻に飛び込む潮の匂い。海にいることを実感するかのように鼻を刺激する。目の前に広がる空、キラキラと西日に照らされる相模灘。「いや~たまらんばいっ」。山の温泉もいいけど、海の温泉もこれまたいい。例えるなら、あの娘もイイがこの娘もカワイイ。そんな感じだろうか?
そんなくだらない煩悩と格闘しているうちに日も暮れてくる。考えてみると今は12月初旬。夕暮れは早い。すると右手に見える岬の空が茜色に染まり、見事な夕焼けが見えてきた。夕陽というと西伊豆が有名だが、東伊豆の夕焼けも捨てたもんじゃない。
浴衣をはおり、浴場から出ようとすると、係の人がスリッパを丹念に拭いている。小さなことかもしれないが、この心配りには実に関心する。ここまでやっている宿はそうあるものではない。気持ちよくスリッパを履いた。
暖簾をくぐり、廊下を歩いていると休憩所で漬物サービスをやっている。風呂でたっぷりと汗をかいた後でいただく漬物がこれまた美味い。これもかゆいところに手が届くサービスのひとつ。ふと時計を見るとそろそろ18時。いよいよ夕食の時間が近づいてきた。さて部屋に戻らないとね。
そして18時。時間きっかりに仲居さんが食事を運んでくる。楽しみにしていた夕食の準備が整い、仲居さんが献立の説明をしてくれた。少々意地の悪い質問にも笑って答えてくれて、本当にありがたい限り。
目の前には金目鯛に伊勢海老に鮑。所狭しと色鮮やかな料理が並び、伊豆にいることを実感。風呂上がりのビールが最高に美味い。酒を楽しみながら食べる会席料理だけに、ビールとの相性も抜群。
細かな匠の技を感じる献立の数々に加え、刺身が甘く感じるほど鮮度も良く、苦しそうにもがく鮑の姿が少々残酷(踊り焼きの別名は残酷焼きというらしい)だったが、最後は肝まで美味しくいただいた。
秘湯好きの私にとって普段は山の宿が多く、海の温泉宿に泊まることは少ないだけに、新鮮な魚介類が本当に贅沢に感じる。しかしよく考えたら、全国的にも海にある温泉の数はそう多くない。
その点伊豆は例外といえるほど狭い場所に温泉が集中し、しかも首都圏からも近い。人気の理由もわかる気がすると感じながら、全品残すことなく美味しくいただいた。
そして食事の時でもお客様を迎える姿勢が垣間見える。この日女将は不在だったが、食事時にも女将の代理として接客係の責任者の人が挨拶に回ってきた。形式的なことなのだろうが、それが自然体に感じるから不思議なものだ。
そして朝、6時過ぎには起き出し、贅沢な朝風呂に入る。ヒンヤリとした潮風に眠気もスッキリ。湯上り処で味噌汁をいただいて、ちょっと朝市を見ることにした。
チェックイン時に感じたが、お土産や小物などの売店が本当に充実している。そして海産物を扱う「銀水朝市」は毎朝6:30から営業。「金目鯛」「アジ」「カマス」「エボダイ」などの干物が目を見張る。実際に海産物を扱っている店舗が出店しているため、鮮度が良いのが特徴だ。
売店も伊豆や稲取のお菓子や小物が並び、駅前の売店で買うよりも品揃えが豊富であるように見える。商品の回転も良いので「ハズレ」はなさそうだ(苦笑)
部屋に戻ると朝食の準備が整っていた。朝食も普通の宿とは違い、品があり本当に美味しい。朝からしっかりと食べれることは本当に幸せなこと。上げ膳据え膳とはまさにこのことだと実感する。
身支度が整い、少々名残惜しいがチェックアウト。帰り際、車のバックミラー越しに見えるお見送りがもの凄い。手を振り終えるときちんと全員がお辞儀をしているのが見える。自分が芸能人になったかのように錯覚をするほどだ。
とにかくお客様を迎える姿勢が「凄い」のひと言に尽きる。それでいて対応は自然体なのだからもっと凄い。スタッフ従業員ひとりひとりのモラルが高いのだろう。ちなみに食事の時に仲居さんに聞いた意地悪な質問とは「銀水荘のどこが好きですが?」という内容。「安心して仕事ができるところ」という答えに全てがあるように思えた。
今までかなりの数の温泉宿を見てきたが、大型旅館にも関わらず、ここまでトータルクオリティの高い宿はそうあるものではない。料金以上の提供サービスの良さを感じる。いい換えれば、提供サービス以上に料金の設定を抑えているともいえる。リピーターの多い理由も納得できるというものだ。
近い将来、もっと違いのわかる大人になったら、また訪れてみたい。
(2015.5 更新)
住所 | 静岡県賀茂郡東伊豆町稲取1624-1 | TEL | 0557-95-2211 |
URL | http://www.inatori-ginsuiso.jp/ | IN:OUT | 14:00 : 10:00 |
宿泊料金 | 17,800円~ [ 平日2人利用 朝・夕食付 ] | 立寄入浴 | 不可 |
客室数 | 和室 102 洋室 4 露天風呂付エグゼクティブスイート 8 |
食事場所 | 部屋出し・食事処 |
駐車場 | あり | 送迎 | 伊豆稲取駅まで送迎あり |
主な泉質 | ナトリウム・カルシウム-塩化物泉 | 温泉利用 | 源泉かけ流し(循環併用) |
浴場設備 | 大浴場・露天風呂・サウナ | 塩素消毒 | 塩素消毒あり(塩素臭は感じない) |